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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第40章 壁越しの約束


「ふっ……ふふふ、なんですかそれ」


 その時、バヤジットの鼓膜をくすぐったのは


「…っ…本当 に……貴方ってひとは……」


「シアン?笑って、いるのか…?」


 今まで聞いたことがなかった、シアンの 笑い声 だった。


 馬鹿にした笑みも、妖艶な微笑みも…何度も見てきたバヤジットだが、こんな声は初めてだ。

『 ──…ほらね 』

 ずいぶん前だ。出会ってすぐ、ウッダ村に行こうとするバヤジットに、シアンが見せた したり顔。

 慌てる自分をラクダの背から見下ろした…朝陽にきらめいたどこか幼いその笑みを、思い出す。



 シアンは笑いをこらえ切れないようで、しばらくの間小刻みに震えていた。

「…っ…はぁー」

「わかったっ…//…わかったからもう笑うな!」

「ふふ……すみません、つい」

 きまり悪くバヤジットが怒ると、シアンは楽しそうに謝る。

「気を使っていただく必要はありません。祝いの品はいりませんよ」

「そ、そういうわけにいくか。生誕日は大切だ」

「僕にとってはあまり重要でもありません」

「…っ…俺が贈りたいんだ!それだけだ」

「ハァ……」

 ようやく笑いが引いてきた。

 落ち着こうとして大袈裟に息を吐き出し

 ぐしゃっと濡れた髪をかきあげて、シアンはその場に座り込んだ。

「シアン?な、なんだ?まだ文句があるのか!」

 沈黙だけは勘弁してくれと、壁をはさんだ後ろでバヤジットがあたふたしている。

 屈強な男のそんな姿を想像すると、ますます頬が緩んだ。

「では……ひとつだけ、僕の頼みをひとつだけ、何でも叶えるというのはどうですか?」

「そ、それは……内容によるな」

「ケチですね」

「俺にできることであれば叶えるっ!」

「クスッ……そうですか、なら」

「……ゴクッ」

 贈り物としてシアンが望んだのは、物じゃない。

 どんな頼みなのだろうか。バヤジットが緊張して待つ。

 そんな彼に、シアンは穏やかな声色で告げたのだった。


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