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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第41章 愛と憎悪
──
「お父様!お父様はいらっしゃるの!?」
クオーレ地区の中枢、サルジェ公爵邸。
「どうされましたか、ハトゥン(王妃)・ハナム」
「お話がありますっ…」
明朝の議会を終えた侍従長が邸宅に戻ると、そこにはハナム王妃が待っていた。
アシュラフ王の正妻である彼女は、本来、王宮の外に出てはいけない身。
急を要する事態らしい。
「シアンが陛下の寝所にいることはお父様もご存知なの?どうして護衛なんて命じたのですか?」
「その件ですか」
外から戻ったばかりのサルジェ公爵は、外套を使用人に渡しながらハナムに歩み寄った。
「こんな場所で大声を出されるものだから使用人たちが混乱しておりますな。別室へ案内させましょう、こちらへどうぞ」
ハナムをなだめるためか、公爵は落ち着いた所作で奥の間に進む。
使用人を遠ざけて二人きりになってから、改めて振り向いた。
「…それで?ハナム様は何をそこまで慌てているのですか。人事に口出しするお立場ではあるまい」
「何を?何をですって…!? お父様こそ何を考えているのかわかりませんわ!シアンはもともと下賎の生まれで、ラティーク・タランとも繋がりがあった男なのよ…っ。陛下に近付けるなんてとんでもありません」
「はぁー……」
もっもとらしい事を心配するハナムだが、公爵はそれに呆れた溜め息を返した。
「みっともなく騒ぐのはやめろ、ハナム」
その声は、キサラジャ王妃に対してではなく、実の娘へ向けられた高圧的なもの──。
「すべて陛下のご意向だぞ」
「だっ…だからと言って…」
父親の変わり身にハナムがたじろいだ。
「夜も寝所で過ごすだなんてっ…こんなの王家への冒涜です!わたしに対しても…」
「──それが見苦しいと言っているのだ!黙らないか」
「お父様……!」
「お前が寝所に呼ばれないのはお前自身の問題だ。他の者に当たるな」
シワをたたえた初老の面に、暗い影を落とす。
厳しい目つきで睨まれたハナムは肩を震わせた。