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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第42章 空虚なる交錯
ギィー・・・・パタン
「………ぅ゛」
ハナム王妃を帰したシアンが扉を閉めた時、奥の間から微かな呻き声があがった。
それを聞き逃さなかったシアンが、スルタン・アシュラフの眠る寝台に駆けつける。
「陛下、どうされましたか」
「ハァ……っ」
「気分がすぐれませんか?」
「…………水、を」
「承知しました」
シアンは一度戻って、卓上から水差しを手に取り、中身を器に移して寝台へ急いだ。
「陛下、こちらを。……身体を起こせますか?」
義手の左手を肩にそえて、起き上がるよううながす。
寝苦しそうに掛け布を剥いだアシュラフは、肩にふれたその無機物の感触に、薄目をあけて応えた。
「シアン……か?」
「はい、シアン・ベイオルクでございます。お辛いでしょうが身体を起こし、こちらを飲んで下さい」
「……」
暗い部屋で、焦点が合わないままアシュラフの目が動く。
少し離れたところに灯るオイルランプが、こちらを覗き込んでいるシアンの輪郭をゆらゆらと浮かび上がらせていた。
影で隠されたシアンの顔に表情は無く
右手に持った水杯でさえ……暗闇のせいで、ともすれば凶器に見える。
荒い呼吸を繰り返すアシュラフは、目の前の光景をぼんやりと静観した。
いつもの悪夢と、同じ景色だった。
「ハァ………ハァ………ふっ」
「あの……陛下?」
「お前が……それを俺に飲ませろ」
アシュラフが動かないので困っているシアンを、口の端で笑う。
「わ…私が、でございますか。それは…」
「早くしろ」
「……っ」
シアンはためらったが王命には逆らえず
器の水を口に含み……おずおずと被さった。