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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第43章 誓い


──…


 冬の寒さが柔らんだように感じる朝。

 …どうやらそれは違って、窓にかけられた厚い布越しに伝わってきたのは昼の気配──。その隙間から、キサラジャの太陽が光を注いでいた。

 気怠さが残る身体を敷布に沈めたスルタン・アシュラフは、眩しそうに目を瞬かす。

「……?」

 長い夢をみた後のように意識がはっきりとしない。

 どんな夢をみていたのか……

 忘れたが、少なくとも、いつもの悪夢では無かった。


「──…陛下、起きられますか?」

「……」

 そんなアシュラフの顔を覗き込んだ者。

「すでに昼の刻でございます。お食事か…、食欲がないようであれば湯浴みをされてはいかがでしょうか」

 彼はすでに王宮警備兵の隊服を着て、頭には帽子を被り、腰には護衛用のクルチ(半月刀)までしっかりと身に付けていた。

「シアン・ベイオルク、お前……」

 合点がいかないといった顔でまじまじと見るアシュラフに、いつもの整った顔を向けてくる。
 
「…お前には、余韻というものは無いらしい」

「護衛の身でありながらいつまでも寝てはおれません。朝には起きて、簡易にですが敷布も取り替えさせました」

「ハァ……そうか」

 ため息をつき、やや重い身体を寝台に起こしたアシュラフ王は、少し不服そうだった。

 それもそうだろう。

 はっきりとしない意識の中でも、昨夜の情事の記憶は残っている。それどころか手や肌に触れたあらゆる感触さえ……まだ生々しく思い出されるのだ。

 なのに

「ふん…小癪だな。慣れたものというわけか」

「……陛下。私はもともと その道 の者です。一夜に十人の相手をした翌日であれ休む暇など与えられません。壊れにくく、丈夫です」

「そのようだな」

 淡々と説明するシアンに、呆れと感心が入り混じる。

 シアンのほうはアシュラフの前に膝をつき、湯に浸した布をしぼると、てきぱきと王の身体を拭き始めた。

 湯浴み前の、簡易な浄めだ。

 裸のまま寝台に腰掛けるアシュラフは、柔らかな布で足を拭くシアンをじっと見下ろしていた。


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