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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第43章 誓い
「‥ッ‥!?」
「僕、を、殺せば……!」
「‥‥‥」
「九年前……あの砂漠で……
お前が、僕を……殺して、いれば……!」
「‥‥‥‥‥!」
バヤジットは気付いていなかった
此方を見ようとしない彼が、ずっと嗚咽を殺して泣き続けていたのだと──。
実の兄を殺した右手を怨むように、血が止まるほど強く押さえつけ、震えをおさえていたのだと。
やっと再会した愛する人を
自らの手で殺め、絶望にくれていたのだと。
「シア ン…!」
我に返ったバヤジットは、取り返しのつかない自身の過ちに気付かされ…狼狽する。
掴みかかっていた両手の指が、ピクリとも動かなくなった。
「僕に…触れるな…!!」
するとその手をシアンが払いのけた。
「……僕は汚いだろう?
幾人もの女を抱き、数え切れない男に犯され、友を殺し犬とまぐわいっ……あげく陛下を敵国に売った身だ。悍(おぞ)ましいだろう?」
「‥‥ッッ」
「だがこれが……お前が勝手に生かした命だ。九年前、怖気付いたお前が、トドメを刺せず逃げ帰った結末だ」
シアンがバヤジットを睨み上げる。
「僕に詫(わ)びろ!兄上に詫びろ!汚泥にまみれた僕を抱き…──お前もその身を腐らせろ!!」
「‥‥‥」
「僕を愛するとは……そういう ことだ……!」
いつもの浮雲のように掴めない彼とは真逆の、魂をこめた本気の言葉が、バヤジットの奥深くをえぐった。
こんな温度で叫ぶ姿を初めて見る。大きな感情を──苦しみをのせた叫びだ。
あまりの衝撃で真っ白になったバヤジットの思考を、ただ、罪の意識だけがじわじわと侵食していた。