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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第6章 片腕の兵士



───シュッ



「‥‥‥ぅ゛ッッ」

「僕の勝ちです」



 辺りが静まり返る。



 何にも当たらず振り切られた槍が、男の手から落ち、土埃の中で転がった。

 自ら武器を捨てたシアンは、慣れた所作で敵の腰から新たな刀を引き抜いていた。男が反応するより先に、三日月形に曲がった刃をその喉元へ突き立てている。

 全く手入れのされていないクルチは切れ味がなく、触れるだけでは首に切り傷も付けられないが……

 シアンがその気になって手に力を込めれば、疑う余地もなくあの世へ行ける。


「まっ、待てっ!負けだ!俺の負けだァ!」

「──…」

 シアンは殺気をそのままに、最後のひと掻きを押し留めていた。

「降参だ……っ、こ、殺すな……!」

 命を乞うウルヒの首から油のようなドロリとした汗が浮き出て、鉄の刃を伝う。

 不快なそれが滴り落ちる頃

 結末を見届けた副官がしぶしぶ合図を送り、部下が篳篥(ズルナ)を鳴らした。

「終わりだ」

 怒りをたぎらせた低い声で、男が二人に告げる。

 だが男は怒っているだけでなく、ひどく動揺しているらしかった。



“ 最後の、あの動き……”

 弱点である背中と左腕をわざと敵前にさらけ出すことで──刺突ではなく大振りな技をウルヒに選ばせた。

 さらに " これを外せば後が無い " と思い込ませる事で、敵を焦らせ、ここぞというタイミングで力の制御を失わせた──?

 結果、長物である槍を力任せに横に振るったウルヒは、それを見越して前走していた奴の速さに対応できず、まんまと懐にはいられた。


 これが素人の策だと言うのか。


“ あれは正しく剣術だ……! ”


 剣術を学んだ者としか思えぬ動き。しかも

 あの独特な構えにも、あの一連の 型 にも、どういう訳か男は見覚えがあったのだ。

 だが思い違いだろう。

 クルバンとして運ばれてきただけの賤人が……まさか、体得している筈がないのである。

 無様に尻餅をついて降参したウルヒを睨み付けて、副官の男は前列へと戻って行った。






───…




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