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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第7章 餌はしたたかに振る舞う
訓練後。あたりは暗くなり、人影の消えた練兵所。
そのかたわらには古びた石塔があった。
街道が完成する以前──かつてここには絶えず狼煙(のろし)が上がり、砂漠を歩くキャラバン達の標(しるべ)として使われていた。
だが今となっては使われる事の無い、無人の建造物である。
「ここにいたんだね、オメル」
「えっ?」
螺旋階段を登ったさきの展望台。
そこでひっそりと過ごしていたオメルの背後に、シアンが声をかけた。
「えっシアンか!? どーしたんだ?なんでこんなとこに…っ」
「君がここにいる気がして」
「す、すごいな……よくわかったな……」
「嘘」
「うそなのか?」
「本当は、君がこの塔の入り口に入るのを見かけたから。君はここで何を?」
「べつになんにもしてないよっ。隠れてる。今はあいつら食堂に集まってるしー…近付かないほうがいいんだよ。酒呑んでるから夜はよけいに荒っぽくて」
「それはいい事を聞きました。なら僕もここにいようかな」
シアンはスタスタと歩いてオメルの横を通り過ぎ、塔のふちに、外を向いて腰を下ろした。
この場所からなら、王都ジゼルを囲う城壁を超えて…その遠方に広がる砂漠の大地を見ることができる。
月の下で白く照らされたいくつもの砂丘が、風に巻かれてゆっくりと形を変えていき──
何年経とうと変わり映えのないこの街とは違い 壁 の外側は刻一刻と姿を変え、同じ風景はひとつたりともなかった。