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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第7章 餌はしたたかに振る舞う
「何、見てんだ?」
「……外だよ。街の外。ここはなかなか良い特等席だね」
「トクトウセキ?街の外なんてずっと砂しか見えないだろ?シアンはそんなの見て楽しいのか?」
「どうだろう。嫌いじゃない」
「ふーん…?」
オメルは首を傾げ、広大無限な砂の景色を凝視してみる。
「オレはあんまり好きじゃないな。砂は食べられないし、歩きにくいし、風が強い日は目にはいって痛いしな」
オメルが生まれ育った村は、ろくな砂避けの壁がない所だった。
住民は土壁の家で無意に一日を過ごし、出稼ぎに行った男たちの帰りを待ちながら、国から支給された食糧で食いつなぐ。
もちろん支給を受けられない身分のオメルは家の中に引きこもっても餓死するだけなので、食べ物を求めて視界の悪い砂漠をさまようのが日課だった。
“ だからずっと王都に憧れてたんだよな…。たっかい壁に守られて、砂なんて見なくてすむんだからさ ”
でも──
「ジゼルの城壁も、近衛隊の建物も、初めて来たときは大きくて格好よくて、どこ見てもわくわくして楽しかった」
「……」
「でもオレ、今はここが好きじゃないや。ここはオレなんかが来る場所じゃなかった」
「……」
「…なぁシアン。なんでいつも貴族達(アイツら)はオレを苛めて笑ってるんだろう、な。クルバンって……なんなんだろうな」
一段と気弱な声でオメルが呟いた。
シアンの隣に肘をあずけて俯き、眼下を見下ろす。
シアンは暫く黙っていた。
オメルの疑問に対して説明のしようはいくらでもあるのだ。この国の仕組みも政治も、彼は当然のように知っているから。
善悪の話ではない。
キサラジャという一国の有り様(ありよう)を語るのに、善悪の価値観は邪魔でしかない。
ただ
「クルバンは古くからある慣習なんだ。建国当時、キサラジャの水を求めて大勢の者が流れてきたことで国の治安が乱れた。やむを得ず国王は、政治と国防に関わる人間にだけ爵位を与えてそれ以外を街から追い出すことにしたけれど……そうやって守られた街は、ひどく味気無いものに変わってしまったんだ」
爵位を持つ者だけが居住を許されたクオーレ地区。平民は、仕事をするという名目で街への立ち入りを許可される。
だがそうなると問題となるのが
仕事、を持たない賤人達だったのだ。