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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第9章 蜜にたかる蛆
──…
「タラン殿!」
王の寝所に続く回廊の一角で、連れの者と歩くラティーク・タラン・ウル ヴェジール(侍従長)は背後から呼び止められた。
呼び止めたのはサルジェ公爵だ。
「見よ、これ等が全て民からの嘆願書だ。内容はタラン殿も承知だな?」
「はて何の事やら」
男が手に持つ書状の山を見ても、タランの顔は涼しいまま。
そもそもの識字率が高くないキサラジャで、この量の書状が届くのは異例だというのに。
「しらを切るつもりか!全て帝国との対立のシワ寄せで稼ぎを失った者達だ。税も払えず路頭に迷っておる」
「それは気の毒に」
「タラン殿が招いた惨事ですぞ?」
「ま、まぁまぁ、気をお鎮め下さいませ。タラン様がお困りでしょう」
連れの侍従が猫なで声で間にはいる。
「今回の件は全て議会を通し決定した事ではございませんか。タラン様も仰ったように今は帝国の脅しに屈せず立ち向かうべきで……」
「議会の連中はタラン殿の顔色を伺うばかり。口をはさむ権利は無い」
「……っ」
「このまま放置すれば民の不満は陛下に向くのだぞ?貴公はそれでも国を背負う──」
しかし第三者が介入したところで、相手の矛先は変わらなかった。
いつもの小言が彼の口から出ようとした時
「お待ちください」
スっと右手を上げたタランが、静かにそれを制した。
「思い違いをなさっているようですが、私は問題を放置してなどおりません。税を払えなくなった者には " 民兵 " として国から仕事を与えておりますとも。ウッダ村に駐屯させている彼等の練成費には……我がラティーク家の財をあてて」
「……ぐ」
「国の為、ここまで身を削り精魂を傾けておりますに…。それが伝わっていないのは悲しい事ですね」
「……もうよい!ラチがあかぬ。陛下に直接お伝えする故、取り次ぎをなされよ」
「陛下に?──…ああ、それは承知しかねます」
「な、なんだと…!?」
「陛下は気分が優れず、私以外との面会は取り止めております。ですからその嘆願書は私が預かりましょう」
「…っ、なんと、卑怯な…!」
「王命に卑怯もなにもありません」
タランはにこやかに微笑み、素早く嘆願書の山を受け取ると相手に背を向けた。連れの侍従も後を追う。
残された男は拳を握り、何も言い返せず立ち尽くしていた。