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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第10章 狂宴

 やっと解放されたのは数刻後。外は既に夕闇が迫っていた。

 肌に張り付く隊服に不快感を抱く。

 こぼれた酒が染みて、そこに汗の臭いもまざっているから救いようがない。


「オメル?──…いないのか」

 武具庫に戻ってきたシアンは、オメルを探した。

 だがオメルはここにいないようだった。

 …いつもの塔に戻ったか。

 彼は頭に巻いているターバンの留具をはずして、襟元をゆるめながら武具庫に背を向けた。


「……」

「待て」

「……?」

「どこへ行くつもりだ?」

 しかし武具庫から離れようとした彼は、鋭い声色で呼び止められた。

「──…副官殿」

「日が落ちきっていないうちからターバンをはずし頭部を晒すとは無作法者めが」

 シアンにとって面倒臭い男がそこに立っていた。槍兵師団の副官だ。

「命じた仕事が終わっていないようだが?どういう事か説明しろ」

「…仕事途中で抜け出した件についてはお詫びします。貴方がお命じになるなら、このまま、終わるまで続きを」

 脱ごうとしていた上衣から手を離し、逆撫でしないよう神経を配った。

「…私に言えない用というわけか?」

「……?」

 だが相手は納得しない。


 ──気のせいかもしれないが、何かを警戒されているような


 ピリッと空気が緊張する。

 この男は何か……勘づいているのか。

 何を、どこまでかは知りよう無いが。


「先ほどまで僕がいたのはバシュの部屋です。貴方の上官に呼ばれて出向きました」

「スレマンか……チ、あの男。それで、貴様は奴の部屋で何を?」

「──…酒を運びました」

「ふん、近ごろ貴様が用意しているという怪しげな酒か…。ネズミが作る酒など気味が悪くて私は飲めないがな」

「……」

 そう言わずに飲んでみてください

 口から出ようとした言葉は逆効果かもしれないので、やめておく。

「私について来るがいい」

「はい」

 ことこの男に関しては、黙って従い、尋ねられた事にだけ答えるのが正解だ。

 副官の後に続き、武具庫のある練兵所から引きあげるシアン。

 どこに向かうのかくらい尋ねてもいいかと、シアンが口を開きかけた時

「貴様、以前、剣術を誰かに教わった事はあるのか」

 副官の唐突な問いに遮られた。



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