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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第11章 復讐者の記録──弐

『 決断を後押しするわけじゃないがお前は男娼の素質がある。だから安心していい 』

『 どうして? 』

『 顔が可愛らしく野郎の好みで肌の触り心地も良い。生意気だが教養もありそうだ。

 ──…それに何より、心をズタズタに壊されてる 』

『 ……心? 』

 差し出した小刀にヤンが上から手を添えたが、しかしそれを掴もうとせず、少年の顔をじっと見上げてきた。

 なので少年も刀を持った手を引けずに立ち尽くしている。


『 心は壊れてるくらいで丁度いい。まともな感性じゃあやっていけない──…大抵が自滅する 』


『 ──…! 』


 ヤンは最後に試している。本当に刀を返していいのかどうか──。

 ここで生き残るという地獄がなんたるかを、無知な少年へ教える為に。

 そんなヤンの蠱惑的(こわくてき)な赤い瞳に試されて

 少年の手がカタカタと震えた。



『 ……ひとつだけ、教えてほしい 』


『 ん? 』


『 貴方はどうしてそんな場所で生きる事を選んだの?死のうと思わなかったのか? 』


『 ──…ハッ 』



 そして今度は、震える少年の手が小刀を固く握った。まるでこの問いに答えなければ刀を返してやらないという意思表示だ。

 久しぶりに愉しくなってきたヤンが、灰を捨てた煙管をくわえて空吹いた。

 それを卓上に置き──空いた手で少年の腰を引き寄せる。

 片手は小刀ごしに少年と重ね、他方の手で小さな身体を胸に抱く。そして少年の耳に口許を寄せて囁いた。



『 俺はまだ死なない。目的がある 』


『 ……ッ 』


『 殺したい奴がいるから……生きているだけさ 』




 誰かを呪うように低く
 睦言のように優しい声で。








…………


────……








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