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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第11章 復讐者の記録──弐
顔を隠していた腕を下ろしてヤンのいる斜め後ろを仰ぎ見る。
『 どういう……意味? 』
『 フゥーー……、クク、…やっと俺を見たか 』
煙管(きせる)を顔の横に掲げたヤンは、少年と目を合わせて年長者の笑みを浮かべた。
『 お前は賢いガキだから教えてやるよ。キサラジャは国のため家のため──生きる義務を背負った人間で溢れている。ただ親から継いだ役目を従順にこなして真面目に働くだけの連中がな 』
『 それ……平民のこと……? 』
『 俺は貴族も国王も同じだと思うね 』
煙草盆のふちで灰を落としたヤンは、話しながらニヤリと口角を上げる。
『 だが賤人(せんにん)だけは……な、生きる義務がないのさ。どこで野垂れ死のうが誰にも看過されず、どう死ぬかは己の自由。俺に言わせればそれに気付かない無能どもが多すぎる 』
彼の表情は、何者にも屈しない。その自信に満ちている。
強がりではない。
ヤンは本心で、他の賤人はおろか平民や貴族達、そして国王までもを見下しているのだ。
『 理解したか? 』
ヤンは傍らの円卓上から美しく装飾された小刀を取り、床を滑らせた。
それは横たわる少年の目の前で止まる。
『 過去の自分を追ってすぐに命を絶つか、ここで血反吐を吐きながら生きてみるか、盗みでもして食いつないでそのうち捕まって処刑されるか……選びほうだいだ。わくわくするだろう? 』
『 ……ぜんぜん 』
少年は身体をお越し、めくれていた衣服を戻して乱れを正した。
差し出された小刀を右手に持ち見詰める。
『 あーどうせ死ぬなら血が多く出る場所を切れよ?手首は……片手が無いから無理か……、なら首か?そのほうが華やかで楽しい 』
『 …死なない 』
『 へぇ? 』
『 僕は……きっと死にたいわけではない から 』
『 ……。なら死にたくなるまでは生きておけ。方法は俺が教えてやるよ 』
『 そうする…… 』
ならそれを返せと、ヤンが手を差し出す。
ぐっと唇を噛み締めた少年は立ち上がって彼に歩み寄った。
やはり泣いていなかったようだ。幼いながらも整った顔は、涙に濡れていなかった。