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不倫白書 Ⅰ
第1章 初めての不倫…
 8

 そしてわたし達は、彼に肩を抱かれながらその地下のバーに入った…

 だが、実は…

 この時点ではまだお互いの名前は訊いていなかった。

 それは多分…

 まだ心の奥深くに警戒心が少しだけあったのだろうから…

 そして彼主導の楽しく、愉しい、流れるような軽快で巧みな会話の中で、名前を訊かれなかったから…

 それに…

『お姉さん』

『キミ』 
 で、会話が十分に成り立ってもいたからである。

 そしてこの時点では本当に…
 口説かれるとは、思ってもいなかったから。

 だけど…

 久し振りに飲んたワイン、そして、甘い『カシスオレンジ』というカクテルのアルコールの心地良いほろ酔いのせいもあったのだと思うし…

 今夜のこの流れの展開が、さっき観た映画のワンシーンと重なっていたし…

 そんな昂ぶりもあったのだと思う。

 そしてなにより…

 バーのカウンター下で、再び彼の足がわたしの脚にイタリアンレストランに続いてまた絡んできたのと…

 それにバーカウンターであるから横並びに隣同士に座っている訳であるから…

 なんと彼がスッとわたしの手を握り、スカートの太腿の上に置いてきたその両手の重さが…

 わたしの心を…

 いや、隠れていたメスの本能を刺激してきていたのである。



 秘かに心がときめき…

 そして…

 奥が、いや、奥深くが…

 ジワリと疼いてきたのを感じていたのだ。



 こんな想い…

 ときめき… 

 疼き…は、初めてであった。

 

 こんなナンパも初めて…

 いや、というより、恋愛自体も高校時代の元彼氏のみであり…

 夫とは…

 お見合いであったから…


 そう、何もかもが初めての体験といえた。
 

 そして、ただあるのは…

 テレビ、映画、小説等で知り得た、エセ知識だけであるから…

 どんどんとときめきが増してきていたし…

 それに伴うアルコールの酔いも、心の昂ぶりを助長してきていたのだ。




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