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さようならも言わずに~恋は夢のように儚く~
第2章 壱
 嘉門の母お藤の方は現在は落飾して祥月院と名乗っている。嘉門の父石澤琢磨(たくま)兵衛(ひようえ)は直参の旗本で五百石の扶持を幕府より賜っていたが、二年前、病を得て亡くなった。
 嘉門は弱冠十五歳で亡き父の跡目を相続し、石澤家の当主となり、今日に至っている。
 嘉門の両親は、嘉門がまだ物心つくかつかぬ頃から、仲が悪かった。この夫婦の仲が冷淡で険悪なのは屋敷内では誰も知らぬ者がいないという有り様で、言うなれば、それだけ仲の悪さが人眼についていたということでもある。
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