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天空のBlack Dragon
第2章 "彼"
 定時で帰宅できるのは稀だ。しかしその日はたまたま仕事が一段落したのと、地上からでもはたしてあれが見えるのか確かめたいという理由が重なり、十八時過ぎには会社を出た。
 今の時期の日没は遅い。そんな時刻でもまだ昼間のように明るい。会社のビルから通りへ出たら、ちょうどそこにいた知り合いに捕まった。私の元部下の若い男性社員だ。彼の仲間らしき若者が二人いた。
「篠崎課長。お疲れさまです」
「ああ。お疲れさま」
「今日は珍しく早いですね」
「まあ。たまにはな」
「これから呑みに行くんですが、課長もどうですか」
「せっかく誘ってもらって悪いが遠慮しとくよ」
「たまにはいいじゃないですか。行きましょうよ。俺、いい店知ってるんです」
「たまには早く帰って家庭サービスをしないとな。妻に見放される」
 ドラゴンが見たいから、とはまさか言えない。それに家庭サービス云々は嘘じゃない。愛する我が子はまだ四歳だ。仕事が忙しいからと子どもの面倒を妻に任せっきりでは父親として失格だ。
 黒いドラゴンがいるはずの方向に目をやる。傾いた太陽に照らされたその一部が、高層ビルの隙間から見える。
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