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第6章 2024年3月14日木曜日

　16

「え、あ、あ、彩ちゃん、お店は？」
　わたしは激しく動揺し、心が揺れてしまう、いや違う…
　自分が恥ずかしくなってきていた。

「もう悠里さんが心配になっちゃってぇ、閉めてきちゃいましたよぉ」

「え、し、閉めて？」

「はい、あんな顔していきなり出ていっちゃったんですもん…
　もぉ心配になっちゃってぇ、お客にウソ云って帰ってもらったんですからねぇ」
　
「で、でも、よくこの店だって？」

「わたしには分かります、ううん、悠里さんの考えてることなんて何でも分かっちゃうんですからねっ」

「え？」

「ウチにいなけりゃ、ほぼこのお店でしょうがぁ？
　それにぃ、このお店は…」

　そうこのお店、このワインバーは、昔の忘れられない、いや、一番大好きだった、愛した男の元のお店であり…
　忘れられない場所のひとつ。

「それに…初めてビッケちゃんと出会ったお店でもあるでしょう？」

「あ…」

　そうだ、そうだった…
　初めてビッケ、和哉に声を掛けられた店でもあった。

　わたしの心は一気にグラグラと揺れてくる…

「もぉ、絶対こんなことだろうって、心配で、心配でぇ、我慢できなくて来ちゃったんですからねっ」

「あ………ごめん…」

「そうしたらぁ、やっぱりぃ、あんなクソ男とぉ、間一髪のタイミングなんてぇ、あり得ないですからぁ…」

「あ、うん…」

　急に恥ずかしくなってしまい…
　穴があったら入りたいくらいであった。

「それにぃわたしは悠里さんにぃ、何が何でも見てもらいたいモノがあってぇ…」

「え？」

「そうしたらぁ、不意に居なくなっちゃうんですものぉ…」
　
　何が何でも見せたいものって？…

「いらっしゃいませ」
　すると店員が彩ちゃんに声を掛けてきた。

「あ、ごめんね、うんと、そう、シャンディガフを…」
　それはシャンパンベースのカクテル…

「たまには他のお店も良いですねぇ…」
　すると、そんな間があったからか、彩ちゃんはグルっと店内を見回しながら、そう呟く。

　わたしに何が何でも見せたいモノ…

　なんだろうか？…