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第7章 2024年3月17日日曜日

　6

「どうぞ…」

「失礼します」
　わたしはドアを開け、彼女、前川麻耶、Мさんを部屋へと招き入れた。

　身長はややわたしより低いみたいだから、おそらく160cmくらい…
　肩までの艶やかな黒髪…
　スレンダーな体型…
　見た目にも落ち着き、理知的な雰囲気を感じられ…
　和哉よりは大人びて見える、美人タイプな女性であり、そしてやはり出張帰りであろうからダーク系のスーツ姿であり、そのスカートから伸びる美しいストッキング脚は正に和哉好みとも思われた。

　そんな予想だにしなかった彼女の突然の来訪と、Ｘツイッターからのイメージ想像の遥かに上をいく美人度に…

　そして…

「あ…やっぱり、元〇〇女子高校バスケ監督の美紀谷悠里先生ですよね？」
　
「えっ？」
　と、動揺している上に、そんな先制パンチを浴びせられてしまったから、完全に全ての主導権を彼女に奪われてしまった。

　そう、わたしにとってその過去の、この元高校教師、バスケ監督という言葉は…
　アキレス腱的な弱点であるのだ。
　
「あのぉ、私、元△△高校のバスケ部だったんですけどぉ、覚えてますか？」
　そして彼女のその言葉が更にわたしに対するダメ押しのパンチともなってしまう。

　△△高校…
　それはわたしの監督時代のひとつのライバル高校。

「あっ、あ、うん、ガードの？」
　そしてわたしは思い出してしまった。

「はい、そうです、ガードの…です」
　蘇った記憶によれば、彼女は優秀なバスケ選手であった…
　そしてその記憶がわたしへの更に強い、いや、重しとなってしまう。

　その元教師、元監督という過去は…
　わたしに『一般常識のある大人』という仮面を一気に被せ、押し付けてくるから。

　おそらくは、この今夜の彼女、Мさんこと前川さんの来訪の意図は容易に想像でき…
　そしてこれらの先制パンチにより、もう既にわたしの劣勢が見え、いや、わたしは絶対に強くは抗えないであろう。

「と、とりあえずここへ…」

　わたしはかなり動揺し、彼女をリビングのソファに導いた…