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The Bitch (ザ、ビッチ)
第2章 2024年2月17日土曜日
 30

「ふぅぅ…」

 ビッケ…

 和哉…

 この時、脳裏には彼の存在感が浮かんできていた。

 ああ、ビッケ、和哉に会いたい…

 このオックンに対して、怒りや苛立ちは不思議に湧いてはこなかった。

 ただ…

 ビッケ、和哉に会いたい…

 逢いたい…

 そんな想い、衝動が急激に湧いてきて…

 急ぎ着替え、すっかり寝落ちしているオックンを置いて…
 わたしはホテルを後にした。

 あぁ、ビッケ、和哉…

 だが、自宅マンションに向かう途中で、わたしは今夜はバスケの遠征に出掛けているという嘘を彼に話してあった事を…
 その事実を、思い出したのだ。

 そう、そうよ…

 わたしはあの『能登半年地震』の心の衝撃がきっかけではあるが、そしていつものわたしの三ヶ月で男に飽きるという悪癖の相乗もあり…
 ビッケ、和哉への想いが冷めた、いや、醒めた筈だった。

 冷めた、醒めた筈よね…

 それでちょうど良いからオックンに甘え、きっかけにして…
 心の想いと、微かな、いや、まだたっぷりとあった未練を切り替えようと思っていた筈だったんだ。

 だから、このオックンが不発だったとはいえ…

 それに、また、一時の昂ぶりによってビッケに抱かれたとしても、それはほんの一時的な迷い、不惑であり…

 また、結局はいつもの様に、ビッケに飽きて、冷めて、醒めてしまうんじゃないのか?…

 わたしは自宅マンションのエントランスに着いたタイミングで、そう自問自答をする。

 今夜さえ我慢すれば…

 一晩我慢して眠れば…

 この今の不惑な心の揺らぎや想いなんか忘れちゃうんじゃないのか?…
 そう逡巡しながら、エントランスホールの来客用のソファに座る。

 どうしよう…

 だけど、今夜、こんな揺らいでしまっていて果たして眠れるのか?…

 だけど今更…

 その時であった。

 ブー、ブー、ブー、ブッ…
 と、スマホが着信し、そして切れた。

「…………」
 その着信は、どうせ目を覚ましたオックンが慌ててわたしに電話してきたんじゃないかと思われた。


「あっ…」
 
 だが…

 違ったのだ…

「え、あ、び、ビッケ…」

 それはビッケ、和哉からの着信であったのだ。

 その瞬間…

 わたしの心の自制という壁が…

 自制心という心の壁が…

 崩れてしまった…




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