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The Bitch (ザ、ビッチ)
第2章 2024年2月17日土曜日
 31

 「え、あ、び、ビッケ…」
 それはビッケ、和哉からの着信であった。

 その瞬間、わたしの心の自制という壁が…
 自制心という心の壁が崩れてしまった。


 わたしは反射的に…

 そして無意識に…

 着信に対してのリダイヤルボタンを押してしまった。

 プルル…

「あっ…」
 ワンコールで出たビッケ、和哉は、そんな声を漏らしてきた。

 それにわたし自身も、その聞き慣れたビッケの声に、一瞬のうちにハッとして…
 我に還った。

「な、何よっ」

 そして我に還ったわたしは、そんな自分の心の揺らぎ、震え、動揺を彼に悟られまいと…
 精一杯な強気の演技の声を出したのだ。

 パワーバランスは壊したくは無かった…
 あくまでもわたしが上に、優位に、マウントを取りたいのである。

 
「あっ、す、すいません、え、遠征でしたよね?」

「…………」

「つ、つい、電話しちゃって…」
 わたしが応えようが無くて黙っていると、彼はそう言ってきた。

「……な、なに?」

 言葉の割には弱々しい声音になってしまう…
 
「あ、逢えないなら、こ、声が…」

「こ、声が、なによ…」

 心が揺らぐ…

「あ、いや、声が…せめて…
 こ、声でも聞きたいかなぁ…って…」

 心が震えてしまう…

「あ…」

「遠征ですよね…」

 そして、わたしの中で…

 自制心が完全に壊れてしまった…

「い、今すぐ…」

「え、あ?…」

「い、今すぐに………来て…」

「あ、は、はいっ」

 ブツっ…
 わたしは電話を切った。

 こ、これじゃ…

 これじゃぁ…

 ペットじゃ、セフレじゃ…

 無くなっちゃう…

 わたしは今の、この、胸の、いや、心の揺らぎ、震えを自覚しながら…

 ち、違うわ…

 さっきのオックンの…

 あの寝落ちしたヤツのせいよ…

 中途半端にカラダに火を点けられて、不完全燃焼で…

 モヤモヤしているせいよ…

 わたしは必死に…

 そう、必死に…

 自分自身に言い訳をする…

 そう、言い訳…

 だって…

 本当の…

 本音の想いが…

 わたしの本音が…

 分かってしまった…

 いや、その想いを認めたくなかったから…





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