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The Bitch (ザ、ビッチ)
第2章 2024年2月17日土曜日
 41

 そしてわたしは最後の抵抗をする…

 だって、わたしは9歳も歳上で、元教師で、教師としてのわたしの過去を知られていて…

 だからこそ、せめて、立場的には上でいて、和哉に対してマウントを取り続けていたい、いや、いたかったから。

「そ、そういえばさぁ、なんで今夜電話なんかしてきたのよ?
 遠征試合って言ってたわよね?」

 マウントを取ったつもりでそう訊いたのだが…

「え、あ…は、はい…実は……」

「実は、なによ?」

「実は…
 悠里さんが居ないだろうとは分かっていたんですが…
 つい、こっちに用事があったついでに…
 つい…」

「つい?」

「あ、はい…つい、このマンションの下を通って…
 あ、いや、通ったら…
 部屋の電気が灯っていたのに気付いちゃってぇ…」

「え、わたしの部屋をチェックしてるの?」

「あ、い、いや、違いますよ、たまたまっすよ、たまたま…」

 そんな事は分かってはいた…

 わたしだって…

 わたしだって、仮に大好きな人の家の近くを通り掛かったならば、必ず、チェックではないけれど、気にはする…
 いや、彼の様に、通るに決まっている。

「や、役所の同僚と駅前で食事したんすよ…
 だからその帰りについ…」
 わたしのマンションは駅前にある。

「あ、ストーカーじゃん」

「え、あ、いや、違うっすよ、たまたまっすから」
 わたしは自分の立場を上にしたいがために、ワザとそう彼を揶揄う。

「ふーん、そうかなぁ?」

「あ、いや、マジっす、マジでたまたまっすから」
 和哉は慌ててそう言ってくる。

 本当は、本音は和哉の気持ちは分かるし、違和感もない…
 でもここで、さっきの見透かされた想いを、マウントを取り戻したいがための揶揄いであるのだ。

 だが…

「でも、なんで悠里さん帰っていたんすか?」
 
「え?……」

 不意の問いに、わたしは…
 言葉に、いや、応えに窮してしまう。

 そうわたしは…
 間抜けな事に、居留守という嘘の言い訳を考えてはいなかったのだ。

 だって…

 一昨日の、遠征試合という嘘を、ウソをついた夜までは…

 もうビッケに飽きた…

 そして…
 セフレという関係も、終わらせようと思っていたから。




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