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飴玉ひとつぶん
第1章 退屈しのぎ
「愛の魔法、かけちゃった」
「かかっちゃった♡」
 薄っぺらでキザなセリフを吐く親友に、心底ぞっとする。ソレに乗る女も女だ。

――待ってる俺も俺か。

 心の中で嘲笑する。

 遡ること数分前。ふたりはいつも通り、一緒に帰ろうとした。今日はキヨのバイトもないから、久しぶりにふたりで駄弁ろうと、適当な店に入るつもりでいた。だが、今レイの隣りにいる女が声をかけてきた。
「ねぇ、レイくんだよね? 今時間ある? 前から気になってて」
 ヘアカラーとアイロンのしすぎで傷んだ髪を指先で弄び、体をくねらせながら、レイを見つめる。まるでキヨははじめからこの場所にいないかのように。

「少しならいいよ」
 レイはキヨの確認も取らず、返事をし、キヨには行き先と、背中合わせのベンチで待つよう耳打ちをした。
 思い返しても、明らかに自分は無関係だし、これで帰っても怒られる筋合いはない。だが、何故か帰らない自分がいる。

「ねーえ、もっと強い魔法、かけてほしいなぁ」
 ねっとりとした、汚らしい色気を帯びた声。囁かれたのが自分でないと分かっていても、鳥肌が立つ。こういった女の相手をするレイの気持ちは、相変わらず分からない。
「あー、ごめん。またあとでね」
「え!? ちょっと!」
 後で人が動く気配がした数秒後、レイはキヨを見下ろした。

「お待たせ。行こう」
「ん」
 キヨも立ち上がり、レイの隣を歩く。
「ねぇ、レイくんどこに行くの?」
「ごめんね、大事な用事があるんだ。今度、お茶でもしよう」
「絶対! ぜーったいだからね!?」
「うん、約束」
 レイが薄い笑顔を浮かべて女の頭をぽんぽんすると、女はだらしない笑みを浮かべ、ふたりを見送った。

「待たせてごめんね」
「なんかおごれよ」
「もちろんだよ。そういえば、今日の講義さー」
 平凡な会話を繰り広げながら、ふたりは公園を離れ、近くのファミレスへ足を運ぶ。大学から徒歩3分という立地と、500円でメインメニュー1品とドリンクバーを注文できることから、このファミレスはいつも大学生でごった返している。
 今日も例外ではなく、席はほとんど埋まっていて、ふたりが通されたのはドリンクバーが遠い窓際の席だった。
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