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飴玉ひとつぶん
第1章 退屈しのぎ
「ある種の自虐行為かなー。女の子を突っぱねることも、ずっと隣に置くことも出来ない自分に、イラついてさ」
「わけが……分からない……」
 〝自虐行為〟という言葉が親友の口から出たのがショックで、声が震える。仮面のような薄っぺらな笑顔に、恐怖さえ感じる。

「愛ってさ、味があるとしたら、甘いのかな? だったら、俺は要らない。苦いほうがいい。珈琲は、苦ければ苦いほど美味しい。だったら、愛なんてクソくらえだ」
 カラカラ、カラカラ――。
 乾いた笑い声と氷の音が、キヨの耳と心をつんざく気がして、めまいがする。頭を抑えながら、そういえばコイツ、エスプレッソに何も入れないで飲むんだったな、と思い出した。

「たぶん、俺は甘い毒を飲みすぎたから、恋で幸せになることはないし、結婚も、たぶん、しない。でもキヨ」
 子供のような、泣きそうな笑みを浮かべ、キヨをまっすぐ見つめる。
「お前は、女の子と幸せになってよ。それだけピュアなら、きっと、なれるから」
 返事に困ったキヨは、オレンジジュースを飲み干し、あぁ、と、否定とも肯定ともとれる、曖昧な返事をした。
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