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がんばれ!赫鎧鈴乃ちゃん
第1章 悪夢の始まり
「キェ〜!」
怪鳥の雄叫びを上げながら面金越しに目前の相手の様子を探る。
全身漆黒の道着防具で身を固めた男は大上段に構えている。
一般に上段は火の位と言われ構えだけで気勢を発するものなのに何だこのヌルっとした構えは。まるで隙だらけ。
高段者という触れ込みはブラフ?
万が一を考えて中段に構えた切っ先をずらさずジワジワと間合いを詰める。
一足一刀。
私の間合いまであと半歩。
狙いは突き。
爪先が数mm前進する。
「ファ〜〜〜」
え?何?欠伸?
嘗めるな!
左足を蹴り電光石火の突進。
貰った!
勝利を確信した。
が、私の手に伝わったのは刺突の衝撃ではなく極めて重たい上からの打ち下ろし。
手から離れたで竹刀が床に落ちるより早く強烈な体当たりに身体が2m程吹き飛ぶ。
ドン!
鈍い衝撃と共に背中で着地すると後頭部を強か打ち付け脳震盪を起こして意識を手放した。
目が覚めた時私の身体は道場の隅に投げ棄てられ他の部員の姿もあの男の姿もそこにはなかった。
負けた。
重たい現実だけが私を押し潰す。
勝たねばならない、否負けてはならない勝負だったのに秒殺されてしまった。
欠伸交じりのダラけた竹刀が最短距離の刺突より早く私の竹刀を撃ち落としその勢いのまま吹き飛ばされた。
そんな馬鹿な。
脳味噌は否定しようとするが全身の痛みがそれを許さない。
負けた。
意識が戻ってから何度目かの慙悔に涙が流れる。
いつまでこうしていても埒が明かない。
正座し位住まいを正して小手と面を外す。
頭に巻いた手拭いで顔を覆うと自然と嗚咽が漏れる。
負け負けた負けたた負けた負けた負けた負けた負けた
1つの言葉だけが脳内で真っ黒な渦を巻く。
そのせいだろうか。
ドタドタと近づいて来る足音にもご機嫌な鼻唄にも気付かなかった。
私の意識を現実に引き戻したのは頭から浴びせられた冷水だった。
「お目覚めかな?負け犬君?」
ニチャニチャと粘っこい揶揄を含んだ言葉。
顔を見なくても剃刀で切った様な細い目と右側だけ引き攣る様に上げられた口角。侮蔑に溢れた表情が想像出来る。
墨田猛。
大上段の男だ。
「自分で言い出した勝負にあっさり負けてショックなのは判るが賭けは覚えてるよな?赫鎧鈴乃。」
そう、私は勝負の前に賭けを申し出た。
怪鳥の雄叫びを上げながら面金越しに目前の相手の様子を探る。
全身漆黒の道着防具で身を固めた男は大上段に構えている。
一般に上段は火の位と言われ構えだけで気勢を発するものなのに何だこのヌルっとした構えは。まるで隙だらけ。
高段者という触れ込みはブラフ?
万が一を考えて中段に構えた切っ先をずらさずジワジワと間合いを詰める。
一足一刀。
私の間合いまであと半歩。
狙いは突き。
爪先が数mm前進する。
「ファ〜〜〜」
え?何?欠伸?
嘗めるな!
左足を蹴り電光石火の突進。
貰った!
勝利を確信した。
が、私の手に伝わったのは刺突の衝撃ではなく極めて重たい上からの打ち下ろし。
手から離れたで竹刀が床に落ちるより早く強烈な体当たりに身体が2m程吹き飛ぶ。
ドン!
鈍い衝撃と共に背中で着地すると後頭部を強か打ち付け脳震盪を起こして意識を手放した。
目が覚めた時私の身体は道場の隅に投げ棄てられ他の部員の姿もあの男の姿もそこにはなかった。
負けた。
重たい現実だけが私を押し潰す。
勝たねばならない、否負けてはならない勝負だったのに秒殺されてしまった。
欠伸交じりのダラけた竹刀が最短距離の刺突より早く私の竹刀を撃ち落としその勢いのまま吹き飛ばされた。
そんな馬鹿な。
脳味噌は否定しようとするが全身の痛みがそれを許さない。
負けた。
意識が戻ってから何度目かの慙悔に涙が流れる。
いつまでこうしていても埒が明かない。
正座し位住まいを正して小手と面を外す。
頭に巻いた手拭いで顔を覆うと自然と嗚咽が漏れる。
負け負けた負けたた負けた負けた負けた負けた負けた
1つの言葉だけが脳内で真っ黒な渦を巻く。
そのせいだろうか。
ドタドタと近づいて来る足音にもご機嫌な鼻唄にも気付かなかった。
私の意識を現実に引き戻したのは頭から浴びせられた冷水だった。
「お目覚めかな?負け犬君?」
ニチャニチャと粘っこい揶揄を含んだ言葉。
顔を見なくても剃刀で切った様な細い目と右側だけ引き攣る様に上げられた口角。侮蔑に溢れた表情が想像出来る。
墨田猛。
大上段の男だ。
「自分で言い出した勝負にあっさり負けてショックなのは判るが賭けは覚えてるよな?赫鎧鈴乃。」
そう、私は勝負の前に賭けを申し出た。