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君が目覚めるその時に
第1章 ふたりを繋ぐもの
後輩の目には神の奇跡に縋る色が見えた。
ただただ微かなものでも、希望が欲しい…とその目は訴えいる。

「そういう事例はある。長い間植物状態だった患者が家族や愛する人の呼びかけで目を覚ました例は少なくないんだ」
「じゃあ…」
「しかしな」
“先輩”はここで一旦息を吸った。
「医師として言わせてもらえば、どうしたって無理なこともある」
「先輩…」
「おのれの無力さをさらすのは医師としての俺を否定することだから俺だって言いたくない。今すぐ目を覚ませてやれるなら俺は何でも試すよ」
「……」
「俺は医師としてベストを尽くすとお前に約束する。けっして何が何でも諦めたりはしない。だからお前も諦めるな。神や奇跡に賭けるんじゃなく、お前の想い…ふたりを繋ぐ想いに賭けろ」
「…先輩」

まばたきもせず“先輩”を見上げる後輩の肩に力強い手が重ねられ、その熱い手のひらは揺るぎない信念に満ちていた。

「それから、少しは休めよ」
「え」
「無理し過ぎて倒れたお前をそこに並べて寝かしたくないからな」
「?」
「俺まで過労で倒れちまうってことだよ!」
“先輩”は悪戯っぽく笑うと、部屋の計器を確かめてから「なんかあったら直ぐに言えよ」とドアを開け出ていった。

その後ろ姿に感謝を込めて無言で頭を下げ、再び眠るひとに目を移す。

(なんかあったら…)

今確かなのは、この先には最悪なことか最高なことのどちらかのことが起こるということ。
“先輩”は医療には限界があるが、想いは果てしなく信じ続けることが大切だと言ってくれた。

諦めない。

あなたが目覚めるまで、けして。

そしてふたりが選んだ選択が間違ってなかったと…それが幸せへの道だったなのだと確かめたい。

だから、あなたが目覚めるまで出逢ったあの日からの思い出話を話そうと思う。
眠ったままでいいから、聞いてください…。


――あの日の出逢いこそが、真の人生の始まりだったのだから――
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