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君が目覚めるその時に
第1章 ふたりを繋ぐもの
コンコン。

ノック音から二秒ほどおいて部屋のドアが静かに開き、現れたのは青い服を着た医師だった。

「よ」
ごく軽く笑みを浮かべた医師は若く、祈りを止めて顔をあげたひととは年が幾つも違わないように見える。

「先輩…」
「ん。お前が来てるって聞いてさ。…どうだ?」
“先輩”と呼ばれた医師は疲れを滲ませながらも眠るひとの動かぬ手を離さない、その両手を見て心配気な顔をする。
どうやら先ほどの「どうだ?」は眠るひとではなく後輩に向けた言葉であったらしい。
そんな“先輩”の純粋な心遣いは届き、今まで無表情に先輩を見上げていた顔がホンの少しだけ和らぐ。

「わざわざすみません。…ありがとうございます」

深々と頭を下げられて“先輩”は右手を左右に振った。

「いいって。俺の病院にお前の大事なひとがいるんだ。お前が何の心配もないようにしてやるのが俺の仕事だからさ、気にすんなって」
「本当に…ありがとうございます」

ますます頭を垂れてうなじを見せる姿は痛々しく、つい目を逸らすと今度はベッドに横たわるひとが目に入った。

「もう二週間か…」
「ええ…」
「お前は毎日見舞いに来てるようだな」
「はい。仕事が終わってからと、休みは朝から…」

(どうりで憔悴してやがるわけだ。)
かつて同じ高校に通い、家が近かったため先輩後輩の境界を越え笑いあっていたあの頃の姿はそこにはなかった。
(それほどに惚れちまったのかよ。)
大事な後輩に報いてやれない自分の力不足が焦れったく、かけてやる言葉も見つからずガシガシと髪の毛を掻き回していると、後輩がポツリと呟いた。

「先輩。意識のない患者に声をかけ続ければ、声は届いて目を覚ますって本当ですか?」
「!!!」
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