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人妻愛人契約
第1章 10億の借金
一時間後、希実は帰ってきた。

「まったく、あのエロおやじ――!」

プリプリしている。目も少し赤い。

祐樹は、とりあえずソファに座るよう、希実を促した。冷蔵庫から小さなペットボトルのお茶を取り出し、希実の前に置いてやった。

「どうしたの? ダメだったの?」

出されたお茶を一口飲んでから、希実は顔をブルンブルンと大きく左右に振った。

「条件を飲めば、支援してくれるって言ってた」

「条件って、どんな?」

「わたしに愛人になれって」

「なんだって!」

大人しい祐樹も、さすがに怒りを露にした。

「まあ、どうせそんなことだろうと思ってたから、こっちの足元見てわたしが何でも言うことを聞くと思ったら大間違いですよって言ってやったの。わたしは人妻ですよって。そしたら、あいつ――」

希実は、悔しそうに声を詰まらせた。

「あいつね、お嬢さんが可哀そうですねって言ったのよ」

明るい茶色の瞳が、みるみる潤んでいく。

「まだ3歳なんでしょ。それなのにあんなに大きな借金を背負って。これから長い人生、どれだけ苦労するんでしょうかねって」

「そんなことを言ったのか?」

希実は力なく頷いた。

「それでね、わたしが、何を言いたいんですかって言ったら、希実さんだってわかってるんじゃないですか。私はお嬢さんに惨めな人生を歩んでもらいたくない。救いたいんですよってあいつ言ったの。月に1回でいいです。私の相手をしてくれれば利息はなし、返済期間も30年でいいからって」

「利息なしで返済30年なんて、ほとんどくれるようなもんじゃないか!」

祐樹が驚くと、希実は再び頷いた。

「わたしも驚いてね、黙っていたら、あいつ、ニターッて笑って、悪くない条件でしょう。返事は今すぐでなくてもいいから、ご主人ともよく話し合ってみてくださいって。どこに愛人になることを自分の夫に相談する人がいるっていうのよ。人を馬鹿にするにもほどがあるわ。ああ、もう、悔しくて、悔しくて」

希実のアーモンド型の目から大粒の涙がこぼれ、白い頬を流れていった。

「希実さん……」

「でも、あいつの言うことも正しいわ。このままじゃ、愛未が可哀そう。私、愛未だけは守りたい。惨めな人生を歩ませたくないの。私、どうしたらいいのかな」

希実は、両手を顔に当てて本格的に泣き出してしまった。
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