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人妻愛人契約
第1章 10億の借金
「希実さん」祐樹は、希実の隣に寄り添うように座ると、そっと肩に手を回した。「大丈夫だよ。愛未は希実さんの子だ。そんなに弱くないよ」

「でも――」

「そんなふざけた奴の言うことなんて聞かなくてもいいよ。何か別の手を考えよう。二人でがんばれば、どうにかなるさ」

「祐樹――」

希実は、頭を祐樹の胸にもたせ掛け、顔を擦りつけて泣いた。

気丈な希実が、こんなふうに泣くのは初めてだった。旅館の経営に携わり半年間、プレッシャーは相当あったはずだ。心の中に抱えていたものが一気に溢れ出したに違いない。

祐樹は、子どもをあやすように、やさしく背中を叩いてあげた。

しばらくすると徐々に希実は落ち着いていった。まだしゃくりあげているけど、もう大丈夫。そう見計らって祐樹は、希実を元気づけようと、少しからかうような調子で声をかけた。

「希実さんが泣くの初めて見た。ちゃんと涙が出るんだね。驚いた」

「なに言ってるのよ。わたしだって泣くことはあるわ。女の子だもん」

希実は、恨めしそうに泣き腫らした赤い目を祐樹に向けた。

「女の子!? いくらなんでも、それはないよ。31でしょう。立派なおばさんだよ」

「ええ、おばさん!? ひどーい。こうしてやる」

希実は、祐樹の腕を掴んで、噛んだ。

「痛っ。なにするんだよ」

祐樹が腕を振って逃げるように身体を反らすと、追いかけるように希実のスラリとした腕が首に巻き付いてきた。

「祐樹、ありがとう。好きよ、大好き」

「僕も好きだよ」

希実のしっとりとした唇が祐樹の唇に吸い付いてくる。

そのまま二人は、ほんのひと時、恋人だったときのような甘い時間を楽しんだ。
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