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人妻愛人契約
第15章 新しい夫婦のかたち
「女将さん、どこに行っちゃったんでしょうね」

星奈が心配そうな顔で言った。

明け方出て行った希実は、お昼近くになっても戻って来なかった。仕事をほったらかしていなくなるなんて初めてのことだ。スマホをかけても繋がらない。ラインも未読のままスルーされている。

「夫婦喧嘩は犬も食わないと言いますから、何があったかは聞きませんけど、戻ってきたらちゃんと謝ったほうがいいですよ」

慎吾が言った。

「うん、わかってる」

祐樹はうな垂れたまま答えた。

「ないとは思いますが、念のため、私からあの人に聞いてみましょうか。そっちに行ってないか」

「あの人って三河屋さん?」

「ええ」

慎吾は、良泉館で唯一愛人契約のことを知っている。だから言ったのだと思う。

祐樹も、もしかしたら、とは思っている。でも確かめるのは怖かった。

「いや、今はまだやめておこう」祐樹は言った。「それより希実が、慎さんが僕の身体のことを心配してるって言ってたんだけど、どうして僕が夜中事務所にいることを知ってたの? 慎さん、今月は夜勤入ってないよね」

「それですか」慎吾はバツが悪そうな顔をした。「いえね。うちも清美と喧嘩をしましたね。頭に来たんで家を飛び出したことがあるんです。行く当てもありませんから、ここに来てみたら、事務所の灯りがついてたんで、社長がまたアプリとか何かつくってるんだろうなって思ったんですよ」

「清美さんと……。そうか、慎さんたちのような仲のいい夫婦でもそういうことがあるんだ。それで、もう仲直りはできたの?」

「その日のうちに帰って平謝りに謝りました」

慎吾は照れくさそうに言った。

「よかったね。うちはどうなるか……」

祐樹が言ったとき、事務所の電話が鳴った。星奈が取った。

「社長、サンガの女将さんからです」

「沙耶さんから?」

祐樹は、星奈から受話器を受け取ると、深田です、と言って電話に出た。
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