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月の裏で会いましょう-revised-
第20章 月の裏側へ(1)
恵は社長とともに国内の鳥居リゾートの施設を転々と回っているから、ここには私のことを知る人は誰一人としていない。それが私を気楽にさせた。
相手はよく自分のことを知っているのに、自分はその人が誰だかもわからず、むしろ私自身の経歴を相手のほうが知っていると言うのは、耐えがたい状況だ。
知人に会うということに、恐怖にすら感じてしまう。
その点、「初めまして」とあいさつを交わす人たちと触れ合うことは、本当に気持ちが楽だった。私が過去を失っていても、誰ひとりとして、何も困ることがないのだ。
───ここにいる人々は誰も、今までの私を見たことがない。まるで月の裏側に来たような気分だ。