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月の裏で会いましょう-revised-
第20章 月の裏側へ(1)
「そう」
昴は形のいい唇を引き上げて微笑んだ。直後、その唇をゆがめて、拳を両目にあてがった。肩が上下に揺れている。
昴は泣いていた。
なぜだか私も、涙が止まらなくなってしまった。
彼ははるばる、姉の私に会いに来てくれた。そして記憶を失ってしまった哀れな姉を見て、胸が張り裂ける思いに襲われているのだ。
波の音が、声を打ち消してくれるのをいいことに、私と昴は向かい合ったまま互いを見ずにしばらくすすり泣き続けた。
涙のわけは、よくわからないのに、滴はとめどなくこぼれ出る。なんとかせき止めて顔をあげると、昴もTシャツの袖で涙をぬぐって微笑んだ。私は尋ねた。
「いつ、ここへ来たの」