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月の裏で会いましょう-revised-
第21章 月の裏側へ(2)
「元気ないね」
翌日の夜。
カウンターの中でグラスを洗っていると、昴がスツールに飛び乗るように座って声をかけてきた。
「そんなことないよ。それより日中は楽しんだの?」
昴は返事もしない。
「昨日の話の続きを聞いて欲しい」
「かまわないけど」
のろけ話などはたくさんだと思っているのに、私は昴と二人で過ごす時間に飢えていた。昨晩昴と会って以来、胸にちらつくのは彼の茶色い瞳や、優しい声、ちょっといたずらっぽい表情、明るい色に染めた柔らかそうな髪の記憶だった。
過去の記憶を失った私のメモリは、あっという間に昴に関する情報で一杯に埋まっていくかのようだった。
弟のことを、もっと知りたい。もっと一緒に過ごしたい。そんな衝動が胸を突く。いけない感情が芽生えそうな予感に蓋をしながらも、この目に昴を映すことをただただ望んでいる自分がいた。