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♥crack an APPLE♥
第3章 優しさで愛する人を救うことなどできない
「……はぁ」



水望のでていった部屋で、炬はぼんやりと閉められた扉を見つめていた。

タバコの灰が自分の膝に落ちたところで炬は飛び跳ねる。



「ああ、くそ。誰が教えるかよ」



古びた椅子の背もたれに思い切り体重をかければそれはギシリと大きな軋みをあげる。

カチカチと音を鳴らす時計の下に、色褪せた写真が飾ってあった。

そこに写るのは、幼き日の炬の笑顔。

母と共に並んで、カメラに向かってピースをしている。



ちらりと、恐ろしい形相の男が目に入った。

目もとに深い隈ができていて、瞳孔が開いた瞳は視点が定まらない。

ボサボサとのびた無精髭が汚らしい。

誰だこの男は。

ああ、俺だ。



鏡に映った自分の姿に絶望した。

昔とこんなにも変わってしまったのか。

『アレ』を知ってから。

世界は真っ赤に、血に染まったのだ。



「だめだよ、水望。おまえは大切な俺の弟子なんだ」



おまえをこんな化物にするわけにはいかない。

たった一人の掛け替えのない弟子よ。

優しさだけで人を救うことはできないんだ。

でも、優しさを捨ててしまったら……その人を愛することもできなくなってしまうよ。



望んではいけない。

どうか、どうか。

●●など抱かないでいてほしい。







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