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君とメメント・モリ
第18章 死神の秘密
「やあ。君が人間として存在する期間もあと八十五日ほどか。調子はどうだい」

「俺はもっとずっと、凛のそばに居たい」

岸辺は静かにほほ笑んでうなずくと、口を開いた。

「刑期をのばしてほしいなんて、君は変わった死神だね。細則に記載された通り、人間の体に収監される期間は九十日間。つまりあと八十五日ほどで君は死ぬ。さらにそこから先五十年間、器ははく奪され、魂のまま漂い続けるという刑に処される。この処分内容は、変えることはできない」

「でも、凛を独り置いて消えてしまうなんて、できない」

「それは無理だよ。例外はない。初めからわかっていたことだろう」

「ああ。分かっていた。でも、そのことの本当の意味を、解っていなかった。大切な人を残して誰かが消えるというのが、どれだけ悲しいことか」

「たしかに悲しいことだ。でも、悲しい出来事を、人間は避けて通ることはできないよ」

「かといって、俺がその悲しい思いを凛にさせるなんて、耐えられない。誰かに裏切られたと感じるような経験を、これ以上凛にさせたくない」

岸辺はため息を吐き、死神に同情の視線をよこした。

「翼くん、君もずいぶんと人間臭くなったね。エゴの塊じゃないか」

「岸辺さん・・・実は俺は、十六年前、彼女の両親を死の領域に送り届けている」

頭上にカラスの群れが飛んでいる。旋回するその数は一羽、二羽、と増え、あっという間に夜空を埋め尽くすほどの大軍となった。

岸辺は上空に目をやったまま、口を開いた。
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