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淫夢売ります
第36章 鎖とドレス:軋む檻
☆☆☆
その後、結局会社には行ったものの、一日中、ぼんやりして仕事にならなかった。いくら集中しようとしても、すぐに意識があの夢へと漂っていってしまいそうになるのだ。
まるで熱に浮かされた夢遊病者のようだった。
それは仕事から帰ってきてからも同じだった。

あの夢・・・
思い出すまいと思っても、氷川に抱きしめられたときの圧倒的な幸福感を何度も何度も僕は反芻してしまう。それほど、強烈な体験だった。

何もかも忘れてただただ満たされる感じだけがあった。
いい匂いに包まれて、柔らかい体に抱かれて・・・。

仕事をしてても、食事をしてても、風呂に入っていても、人と話しているときでさえ、気を抜くと、『また氷川に・・・』と考えてしまっている自分がいる。

しかし、同時に、『あれを体験し続けてはいけない』『はまってはいけない』と必死に淫夢に抗おうとする自分も感じるのだ。

そこにあるのは恐怖だ。
自分がとんでもなく、変わってしまうような。
引き返せなくなるような、そんな恐怖。

夢の中で自分はなんと言っていた?
淫らに濡れたアナルを自ら晒して、媚びるように、蕩けた顔で

「犯してほしいなんて、そんなこと・・・」
あるわけない・・・

馬鹿げた気の迷いだと言い聞かせようとして自分から口にした『犯してほしい』という言葉に、胸が跳ねる。同時に浮かんできたのは、氷川に後ろからアナルにペニスをずぶりと挿れられ、言いようのない快感に咽び泣く自分のイメージだった。

嘘だ・・・
そ・・・そんなこと

慌てて打ち消すように激しく頭を振る。しかし、何度頭を振っても、僕の脳内にこびりついた快楽の幻影を完全に追い払うことはできない。

カード・・・あのカードが・・・
あれが僕を狂わせているのは間違いない
間違いないのだ

そう思いながら、僕はふらふらとサイドテーブルに歩み寄り、引き出しを開けてカードを手に取っていた。

幸せそうに蕩けている女性の表情
ふわふわと柔らかそうなドレスを着て
何かを求めるように手を伸ばしている

どうして?
 どうしてこんなにも胸が高鳴ってしまうのだ?

ゴクリと生唾を飲み込み、手が震える。

もう・・・一度・・・
 そう、もう一度だけだ。

もう一回あの感覚を味わったら。
あの幸せを感じたら、もうやめよう。

僕は、そっと枕の下にカードを滑り込ませた。
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