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淫夢売ります
第37章 鎖とドレス:解放のドレス
☆☆☆
撮影室、というのは本当に撮影室、だった。

背景には白いスクリーンのようなものが垂らされており、手前には傘を逆さにしたようなプロ仕様のフラッシュ装置やクレーンにつけられた2台のカメラ、そして、おそらく編集用なのだろう、左手にはパソコンが2台並んで置かれているブースがあった。
撮影用のスペースにはすでに、洋風のソファやテーブル、そして花瓶に活けられた大きな花束等が据えられている。

部屋にはひとりの女性がいた。おそらく彼女はカメラマンなのだろう、首からは一眼レフのカメラを下げ、ポケットがたくさんあるベストを着ていた。後ろで髪の毛を一つにまとめた姿からは活発そうな印象を受ける。彼女は私に対して、宮下と名乗った。

「では、撮影に・・・ええっと、今日は屋内だけ?」
宮下が氷川に尋ねると、『そうですね、初日なんで』などと答えていた。
「わかりました、では、竹内様・・・そちらに立って。ああ、氷川さん、ポーズつけてあげてもらってもいいですか?」
まだ戸惑っている私の手を氷川が引いて、撮影スペースに連れて行く。氷川が『手はここに、さりげなく』とか『視線は自然とカメラの方に』などと教えてくれた。ヒヤリとした氷川の手がそっと触れ、手や足の置き方や身体の向き、視線の取り方などを指南されるたびに、妙にドギマギしてしまっている自分がいた。
「ハイ、撮ります」
パシャパシャ、と数回フラッシュが焚かれる。何度もポーズを取らされ、時折メイクを直されながら、私は言われるがままに撮影され続けた。

フラッシュが光るたび、不思議な気持ちになっていく。
最初は違和感ばかりが先行していたけれど、次第に、自分でも視線や身体のひねり方などを工夫するようになっていった。

どうしたら、もっときれいに見えるか
どうしたら、もっと可愛らしく見えるか

「いいですね・・・竹内様。今度はこっちに視線ください。ああ、可愛いですよ。凄くセクシー」

そんな声をかけられているのは、たしかに私だけど、明らかに今までの自分ではない。

シャッターを切られるたび、促されてポーズをとるたびに、電子の印画紙に刻まれていく、私ではない私。
知らない私が、顕になっていく。

こんな視線、こんな姿勢、
こんな姿、こんな気持・・・
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