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淫夢売ります
第38章 仮面の夜会/二夜目:テリエ・ドゥ・ラパン
☆☆☆
「ラビ・・・ラビ・・・?」
誰かが私の肩を揺すっていた。

誰?
・・・知らない、声。

大きながっしりとした手の感触が肩に触れている。
意識が深い無意識の底からゆっくりと浮かび上がってくる。同時に周囲の喧騒も耳に入ってきた。

どうやら私はバーテーブルのようなところで突っ伏して眠っていたらしい。身体を起こすと、顔になにか違和感を感じるし、頭を上げた時、何かが頭の上で動いたような気がした。

なんだろう?

正面を見ると、バーカウンターの向こうにはいろいろな種類のお酒の瓶が並んでおり、その背後は鏡張りになっていた。なので、私の顔が映っているのが見えるのだ。そこに見えたのは・・・

これ・・・うさぎの仮面?

私が身に着けていたのは、白ウサギを模した仮面だった。ベネチアンマスク、とでも言うのだろうか。鼻の上までを覆う仮面に、布製の長い耳がついている。顔を覆う部分はプラスチックの用な素材でできており、頭の後ろでしっかりと結わえるようになっているのでちょっとやそっとでは外れたりしないようだ。

鼻と口は出ているし、目のくり抜きも大きいので息苦しさや視野の狭さは感じない。

「ラビ、大丈夫ですか?」

隣の男性が声をかけてくる。隣りに座っている男性も仮面を被っており、タキシードのようなものを着ていた。ちなみに男のマスクは黒い猫をモチーフにしているようだった。

「あ・・・え・・・と?」

状況が分からず戸惑ってしまう。
今一体自分がどこにいて、何をしているのか。なぜこんな仮面を被っているのか、全てが分からなかった。

「ああ、ちょっと、効きすぎたのかもしれませんね。
 だからやめておけと言ったのに・・・」

黒猫の仮面の男はそっと私の髪を撫でてくる。
この場の不思議な雰囲気に飲まれたのか、男がとても紳士的だったからなのかわからないが、私にとってその接触は嫌ではなかった。

むしろ、髪を撫でられただけでゾクリとしてしまってすらいた。

「効きすぎた?」
尋ねると、彼は目の前のカクテルグラスをちょっと引き上げて見せる。薄青く発光しているように見える、不思議な色のカクテルが少しだけ残っていた。

「フィルトゥル・ダムール・・・という名前のカクテルです」
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