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淫夢売ります
第6章 くちなしの恋:あふれる想い
ハッとして、私は顔を上げた。

「すぐにでなくてもいいと思います。
 ただ、せっかくなので、このカードは持っていって下さい。
 あなたが選んだカードです。あなたの力になってくれはずです」

ユメノさんがニコリと笑う。
最初に会ったときは、その瞳が夜の闇のように昏くて、ちょっと怖いと思ったが、今は不思議なことに、海のような優しい色に見える。

私は、カードを受け取った。

この思いを、伝えるべきか・・・、飲み込むべきか・・・。
ああ、でも、もう、答えは出ているんだ・・・。
分かっていたのだ。
自分がどうするべきか・・・いや、どうしたいか。

『これがあなたの欲望です』

そう、私は背中を押してほしかった。私が求めていたもの・・・それに言葉を与えるとすれば、それが、

『勇気』

☆☆☆
カランカランカラン・・・
軽い鈴の音を立てて、クライエントの女の子が帰っていく。

奥からカグラが顔を出す。
「珍しいですね。ユメノさんがあんなこと言うなんて。しかもタダで・・・」
ぎろっと私はカグラをにらみつける。
なにさ、人を守銭奴みたいに言って。
その目におそれをなしたのか、さっと奴は引っ込んだ。

まあ・・・たしかに珍しいよね。
私にしては。

でもさ・・・あんなにきれいな「欲望」を見せられたら、サービスもしたくなるわ。
私の手元には『短い髪の女性にキスをする人』のカードのペアがある。

もう、多分、このカードを通して、夢を見させてくれることはないだろうな。
それは残念だけど・・・、でも・・・。

あの子のきれいな「欲望」が、優しい現実の中に開花しますように。

祈りを込めて、私はカードを使用済みファイルにしまいこんだ。
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