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きのうの夜は
第12章 きのうの夜は
私はバッグから通帳とキャッシュカードと合鍵をテーブルの上にぶちまけた。
「これは、返すから、私にはもう必要ないわ!!」
吉村は散らばっている通帳とキャッシュカードを見ていた。
すると、また怒ったようにこういてくる。
「なら、お前の好きにしろっ!!」
「ええ、好きにするわ…」
「その好きな高山と一緒になればいい!!」
「ええ、そうするわ…」
私はバッグを持つと急いで玄関のドアを開けて部屋を出て行った。
これですべたが終わったと思った。
マンションのエントランスを出ると、シトシトと雨が降っていた。
私は、傘も差さずに駅まで行って電車に乗った。
本当は、こんな別れ方はしたくはなかった。
だが、結果的にはこんな風にしか別れられなかったのかも知れない。
私に後悔の気持ちはなかった。
吉村に対する気持ちは、もう随分と前から冷めてしまっていたのだ。
それを、自分自身に嘘をついてまで、吉村と一緒にいた自分にも責任があると思った。
平手で打たれた頬に手を当ててみる。
その頬は少しだけ熱を持っている様だった。
どんな状況になっても男は女に手を上げてはいけないと私は思っていた。
手を上げられて殴られたその瞬間に、相手への気持ちは冷めてしまうのだ。
その事を吉村は分かっていないのだとその時思った。
雨は益々激しくなって電車の窓に打ち付けていた。