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ヒヤシンスの恋
第1章 菫のため息
「え?海外出張?シカゴ?来週から?3ヶ月も?」
天ぷらを揚げる手を思わず止めながら、菫は亮一を振り返った。

「そうなんだよ。アメリカのシカゴ。世界家具博と視察と商談。まるっとやるから3ヶ月。
…今朝いきなり本部長に呼ばれてさ。
『おい、お前パスポート切れてないよな?』てさ。
行くはずだった先輩が昨日骨折して入院しちゃったらしいんだよ。
で、先輩のアシストしていた俺にお鉢が回ってきたわけ。
一応、帰国子女だからな。まあまあポンコツ英語だけどさ。
…あれ、スミちゃんさ、俺のパスポート切れてないよなあ。
新婚旅行でイタリアに行った時、更新したもんな。
あれからまだ…何年だっけ」
言いながら亮一はあくせくと書斎に向かい出した。

「…5年だよ。忘れちゃったの?亮ちゃん」
ガスコンロの火を止めると、菫はやや膨れっ面で夫のあとを追う。

「そっか、5年か。ならまだ切れてないな。
良かった良かった」
呑気に安堵する亮一のワイシャツの背中は菫の気持ちなど微塵も気にしていないようだ。

「あった、あった!
良かったあ!」
引き出しから探し当て、子どものように無邪気に笑う。

…何が良かっただよ。
菫はにこにこ笑う亮一をわざと睨みつけてやる。

「ちょっと。
転勤したばかりの妻をさ、3ヶ月も見知らぬ土地に置いてきぼりにして平気なの?」


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