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トライ アゲイン
第9章 目覚めの時
「何をあんなに慌てていたんだい?」
安祐美を落ち着かせるように
ドライバーはなるべく穏やかな口調で問いかけた。
「ちょっと…学校でイヤな事があって…」
「ははは…わかるよ…
君たちの年齢ではちょっとしたことが世の中を変えるような一大事に思えるもんさ
でもね、大人になるにつれて、どうでもよかったと思えるようになるもんさ」
世の中が変わるような一大事…
そう!そうなのよ!私にとっては一大事なのよ
なんたって記憶の中の高校生活がまるで違ったものになっているんだから!
頭の中を整理しようとすればするほど混乱してくる。
どうして記憶の中の思い出に戻ってくれないの?
本当にここはパラレルワールドで
もう元の世界には戻れないの?
安祐美が考え込んでいる最中も、
元気出せよとか、何か旨いもんでも食いに行くかい?と
ドライバーは安祐美を気づかって声をかけてくれる。
心ここにあらずの安祐美は「ええ、まあ…」などと曖昧な受け答えに終始した。
そうこうするうちに
カーナビが「目的地付近に到着しました」と音声でお知らせしてくれる。
「えっと…どのお宅が君んちなのかな?」
隣からドライバーの男が話しかけても
安祐美は考え事に夢中で気づかない。
「ほら、悩むのはもう止めにしたら?」
男に肩をポンポンと叩かれて「ハッ!」と慌てて思考を停止した。
「あ…ありがとうございます
すぐそこの一戸建てです」
そのように男に告げると、ご丁寧に車を家の前に横付けしてくれた。
「あ、あの…送っていただいたお礼に…
コーヒーでもどうですか?」
ご近所の手前、車からさっさと降りて男を見送ると、母にこの事が耳に入ると「まあ!送っていただいたのにお礼もせずに帰しちゃったの?」と小言を言われそうなので、慌ててドライバーを自宅に招き入れた。