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トライ アゲイン
第10章 軌道修正
…祐美…安祐美…
誰かが自分の名を呼んでいる。
この声は…
そう、同じ会社に勤務する小向さんだ。
「安祐美!!何やってんだよ!!」
ガシッと腕を掴まれて後方に引っ張られる。
その直後、キキキーっと急ブレーキの音を鳴らした高級車が安祐美の横をスレスレに通りすぎる。
「バカっ!交差点でボーッとしていたら危ないだろ!」
安祐美の手を引いた小向は
その勢いのまま安祐美をしっかりと胸に抱き締めていた。
「私…車に跳ねられなかったの?」
「なんだい、まるで車に当たりたかったような言いぐさだな」
おかしい…
このシチュエーションはハッキリと覚えている。
車に跳ねられた時の体の痛みも体が覚えている。
なのに今、自分は交通事故を避けてこうして何事もなく小向さんの腕の中でピンピンしている。
「ひょっとして僕がプロポーズしたのが不服だった?断る口実を探そうとしてボーッとしてた?」
交通事故を避けて安堵していた小向の表情が
今度は落胆の色を浮かべていた。
「ね、今は何年?」
「えっ?令和六年だけど…」
突然に何を言い出すのかと小向は怪訝そうな顔をした。
ホッとしたり落胆したり怪訝そうな顔をしたり
ほんの数分で小向の表情は慌ただしく変化していた。
「私…元の時間に戻ったのよね?」
「何を言ってるんだい?
あ、そうか、そうやって僕のプロポーズをはぐらかそうとしてるのかい?
もし、断るつもりならストレートに断ってもらった方がスッキリするんだけどな…」
過去を色々と引っ掻き回してしまったせいで
私の未来まで変わろうとしているの?
いや!そんなの、絶対にいや!
幸せな未来が目と鼻の先にぶら下がっている。
この幸せを自ら手離すなんて勿体ない!!
「違うわ!プロポーズの答えはイエスよ!
私、小向さんと結婚したいわ!!」
歩行者の邪魔になるのもお構いなしに
安祐美と小向は歩道に立ち止まり抱擁を交わした。