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12歳年下の彼のお誕生日の話
第4章 7月7日 AM編

と、言われてしまって。
実際に…ちょっと手前で
人の流れに飲まれて数秒程度
そのまま流れて行っていた事があって。
小林から葵に手を繋がないかと提案される。

『手…汗、…気になるかも…知れないけど…』

そう言って自分のズボンで
手の平の汗を拭いて手を差し出して来て。

『いっ…いえ…す、すいませ…ん
すぐ…はぐれてしまいがちで…ッ』

そう言いながら葵が差し出された手に
自分の手を重ねるときゅ…と手を握られて。
その遠慮しがちな感じの…手のつなぎ方と握り方に
小林サンらしい…な…と思いつつも。
真面目で誠実な…彼を感じていて、
やっぱり…小林サンが好きだなぁって
そんな風に思ってしまう…。

今は…こんな場所だし、
突然好きと言われても…
小林サンも…迷惑だろうから。
言葉に出来ない代わりに
繋いだ手をきゅっと自分から握った。

『あっ…、え…蛯名…さん…』

周囲には…沢山の人がいて
あちこちから話し声が聞こえているのに。
自分と彼女だけの…世界と言うか、
空間と言うか…領域…みたいなのが…
在る…のを…感じてしまって居て……。

『つ、次の水槽…見に…行こう……』

その場所から…手を引いて離れて
ふにょ…と柔らかくて小さい…手だなって。

タコの水槽の先には泳いでいるイカナゴを
見る事が出来る水槽があって。

『凄いですよ!小林サン、
イカナゴ、高級品じゃないですかッ』

『もう…加工された姿しか
すっかり見なくなって……』

イカナゴは…兵庫県の春の風物詩で
春になって漁が解禁されると
スーパーに大量の生のイカナゴと
イカナゴのくぎ煮が並んで…親戚からも
届いたりしてしばらくイカナゴ食べる…って
そんな春のお約束…みたいなのが
年々の漁獲量の激減で…なくなってしまっていた。

漁が解禁されても数日で終了したり、
今年のイカナゴ量は1日で終了して
兵庫県の食卓からイカナゴが
消えてしまっている…に近い状況になっている。

『泳いでるイカナゴは…初めて…見た…』

『はい、私も…生きてる
イカナゴは初めて見ました…』

イカナゴは…チンアナゴみたいに
砂の中に身体を潜り込ませて居て。


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