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アビーとアダムソンホテルの人々
第2章 201号室
工房に着くと数体の人形が転がされている中に、大人の背丈ほどある等身大の女性型の人形が1体、作業台になにも着飾られないまま寝かされていた。

「ほら、アビーみてごらん。美しいだろう」
「本当、きれい」
「触ってみるかい」
「うん」

ロイドは人形を抱き上げて、側にあった作業椅子に腰掛けさせた。

「触ってごらん」

アビーは人形の頬に触れてみた。人形の頬は柔らかく温かい。

「すごい、生きてるみたい」
「胸にも触れてごらん。どうだい?」

胸は小振りだが形よくロイドの掌に収まるサイズだ。

「柔らかいわ」

毎回思うがロイドの造る人形は生きているみたいだ。
肌は柔らかく、温かい。眼こそ開いて歩いたり、話をしたりはしないが、性器も付いていて、知らない者がみたら人間なのではないかと勘違いしてしまうだろう。

「生きているよ。いや、正確に云うと生きていたかな。でももうすぐ鼓動が止まり無機質な物質になりガラスケースに飾れるよ」
「本当?」
「あぁ、本当さ」

彼は云う。鼓動が止まってもこの肌の温かさ、柔さかは失われないと。

「人形は繊細で脆い為、直ぐ崩れて腐ってしまう。温度管理等大変なことはあるが、だけど僕は造り出したのさ」

女性の美しさを永遠の物にしたいと切望し行動する。

「体が冷えたわ」
「あぁ、そうだね。もう戻ろう」

工房を後にした二人はしばしば、人形について話が弾む。

「美しい女性を、飾って置きたいのだよ」

紅茶を啜りながら彼は語った。

「私は早くあの人形みたいに大人になりたい」
ホットココアを飲みながら私も語る。
「君ならなれるよ。それ以上にね」
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