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第12章 回想 不均衡



「おっと、失礼」

 別の先輩が目の前に立っていた。私にぶつかりそうになって、止まった。

「ちょっとトイレに」

 私は慌てて横によけて道を開けた。



「おー、霧野ちゃん、お帰り」

 見つかってしまった私は、入れ替わりに部屋に入るしかない。
立ち聞きしていたとは思われていないようなのが幸いだった。

「すみません、場所がちょっとわかりづらくて」

 なんて、聞かれもしないのに、遅くなった言い訳をしながら。



「これ、新しい料理来たよ。あったかいうちに」

 先輩が勧めてくれる新たな小皿をありがとうございますと受け取って、箸をつける。
相馬が取り分けてくれた小皿は、まだ手つかずで置いてあった。



 ……別に、いいけど。

 相馬はまるでさっきの会話などなかったかのように、先輩たちと談笑していた。

 別に、相馬に女として見られたいなんて、これっぽっちも思ってないんで。
相馬が仕事ができることは認めるけれど、ただ、ただそれだけだ。



 仕事上の関係の人とは、それ以上にならないように、これまでずっと気をつけていた。
社内恋愛なんて、面倒なだけだし。

わかっているはずなのに、苦しいと感じるなんて、馬鹿みたいだ。

 もう、やめよう。



 優しくしてくれる先輩方には申し訳ないと思いながら愛想笑いを繰り返し、ただ、早く帰りたいなとそればかりを考えていた――。


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