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第12章 回想 不均衡



斜め前の席に座る相馬を、直視することができなかった。
相馬に取ってもらった料理が、喉を通る気がしなかった。

相馬に使えない奴だと思われたくない。
認められたい。気に入られたい。



 だったら――今から相馬に釣り合うような、明るく元気で面白い、社交的な女の子になれって? 

無理すぎる。
だってもう三十年近く、この性格でやってきたのだ。
今からうわべだけ演じたって――、

 ――人のグラスを倒すのがオチだ。



 だめだ。そろそろ戻らないと。
一応、今日は私が主役なんだから、座っていないと。
私の歓迎会というのが例え、飲み会のための口実であろうと。

 深呼吸して心を落ち着かせて、お手洗いを出た。



 私たちのために貸し切った個室のドアが見えてくるにつれ、緊張が高まっていく。
嫌だな。戻りたくない。
一秒でも長く一人でいたくて、スライド式の扉の前で逡巡していると、中の会話が微かに聞こえてきた。



「えー、霧野ちゃんいいじゃん。よくない? どう?」

 この声はわかる。
さっき相馬の隣でウザ絡みしていた先輩だ。
うわ、何だこの会話。戻りづらい。

 相馬の、含み笑いの混じった声が、やけにはっきりと響いた。



「霧野? そういやあいつ、女でしたね。考えたこともなかったです」

 ずん、と、心に重くて太い針が刺さったようだった。

「あいつは、ないっすよ。あんな仕事人間、つまんないだけですって。可愛げもないし」



 酷えな、と先輩が笑うのと、手を掛けた扉が向こうから開くのが同時だった。


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