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unbalance
第2章 傘立て
相馬が傾けた傘の端に、できるだけ身を縮めて頭だけ入れる。
「それじゃ意味ないだろ」
相馬が傘を、私と反対側の手に持ち替えた。
「あ、ちょっと……っ」
抵抗できなかった。
私は相馬の胸に、抱き寄せられるように身を預けていた。
「そ、相馬、」
まずいって、これは、これは――
薄いワイシャツ越しに感じる相馬の体温が温かい。
肩を掴む相馬の手は力強くて、痛くはないけれど、振りほどけないことは明白だった。
エアコンが切れた中での残業は、相馬も暑かったのだろう。
自分のとは違う汗のにおいがした。
それを不快だと感じることができなかった。
咄嗟に俯いてしまった私の視界には、相馬の長い脚と革靴が見えた。
「何、霧野」
相馬の声は笑っていた。
決して気持ちのいい笑みではなかった。
「意識してんの?」
黙ってしまっていたことに今さらながら気づく。
相馬が何とも思っていないことなんて知っていたはずなのに、今さらながら――傷つく。
いや、傷ついてなどいない。
「相馬でそんな、するわけないじゃん」
私の強がりがどこまで信じてもらえたかはわからない。
緊張で吐き気がしていた。
「行くぞ」
相馬の声に私は黙って頷いて、相馬の足に合わせて、雨の中に一歩踏み出した。