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第15章 退勤



 相馬は何も言わなかった。
冷たい目で私を見下ろしていた。
怒ってる。

そりゃそうだ。
勘違いさせてこんなに悩ませて、今さらそれが無意味でしたなんて。
そのうえそれを伝える前に、真っ当に処理しようとした相馬を詰ってしまった。
怒るのも無理はない。
嫌われても仕方ない。



「嫌だったわけじゃない、の」

 相馬が静かにそう聞いて、私は顔を上げた。



「うん」

「じゃあ」

 信じてくれたのか。
一瞬そう思った。
大きな間違いだった。



相馬が、袖を掴んだ私の手をさっと振り払って、そのままその手で私の手首を掴んだ。
ぐいと体を近づける。
手首が捻れて一瞬痛みを感じる。

相馬の予想外の行動に、私はされるがままだった。



「今からうち来る?」



 相馬の口元はいつも軽薄な冗談を言うときのようにへらへら笑っていて、けれどその目は暗かった。


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