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第15章 退勤



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 遠くに一人、鞄片手に力なく歩くサラリーマンを見つけた。あれは、

「相馬!」

 彼の歩調が一瞬滞った。
その隙を見逃すという選択肢はなかった。
最後の力を振り絞って全力でダッシュする。
ぎょっとした顔の相馬に逃げられないように、彼の袖の端を掴んだ。



「相馬……相馬、勘違いしてるみたいだけど」

 会社を出てからものの数百メートル、すっかり汗だくになってしまったけれど、なり振り構っていられなかった。
息を整えながらぎりぎりで喋ろうとする私に、相馬は沈んだ声のまま、ゆっくりでいいよと言った。
周りの家々には灯りがついていたけれど、歩いている人は誰もいなかった。
私は首を横に振って話し出した。

「そもそも相馬が罪悪感を感じることなんてひとつもない。私は、……その、無理やりされたと思ってないし」

 内容が内容だけに声は潜めるけれど。

「嫌だったわけでもないし」


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