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第3章 夜道



 傘を目深にかぶって、下ばかり見ながら歩いた。
強く風が吹き付ける度に、相馬が傘を片手で押さえ込みながら、私の肩を掴む手にも力が入る。
少し痛かったけれど、文句は言えなかった。
この風の中、傘を片手でコントロールしているほうが信じられなくて、そして、ありがたかった。

 二人でくっついたままよたよた歩いていると、ふと足元が明るくなって、それで駅に着いたのを察した。
傘に雨音が当たらなくなってから、相馬が傘を下ろし、私たちはようやく顔を上げた。



「……結構、人多いね」

 人が多いだけではない違和感に、私はあたりを見回す。
原因はすぐにわかった。
人の流れが改札に向かっていないのだ。
みんな立ち止まって、スマホの画面を一生懸命見つめているか、誰かと電話しているか。



 雑踏の中に聞き流していた構内放送の音を、ようやく日本語として聞き分けた。

『当駅に発着する電車は、強風のため全線で運転を見合わせております。復旧の目処は立っておりません。お急ぎの皆様におかれましては――』

「まずいな……」

 私の頭の斜め上で、相馬が呟く声が聞こえて、私は慌てて明るい声を出した。

「大丈夫だよ、タクシーで帰るから。ここまでありがとうね」

「タクシーって、あれのこと?」

 相馬が私の背後を指さして、私は振り返った。


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