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第21章 軛



「霧野」

 相馬が身を乗り出して、私の頬に、ちゅ、と音を立ててキスをする。
名前を呼ばれるたび、優しくされるたび、
もしかしたら私でも、と勘違いしたくなってしまう。
私のほうを見てくれるんじゃないかと期待してしまう。

相馬の固くなった欲の塊も、もどかしいほど優しい指遣いも、力強く私を抱きかかえる腕も、荒い息も、ぜんぶ私のためのものだと思いたくなってしまう。



 だめだ、これ。

 だめだ。またあの日――先週の金曜日と、同じ轍を踏むわけには、いかない。

 今日の私は、余計なことを考える前に、すっと終わらせてすっと帰るのだ。



 私は相馬から逃げるように体を離した。
相馬は思ったよりあっさりと私を解放した。



 相馬のほうを振り向くと、相馬は真剣な目でじっと私を見ていた。
ズボンの前だけ寛げていて、紺色のパンツがぐっと押し上げられて中身の質量を主張していた。
恥ずかしくて思わず目を逸らした。



「……霧野、やっぱり、」

 やっぱり嫌だったんだ、などと相馬に言われる前に、私は宣言する。

「私が、してあげる」


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